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焚き火を化学する
フリーク向け
焚き火という現象を、化学的見地から語ります。
化学的根拠に基づいた、うまく燃やす焚き火を目指します。
まとめでは、実用的なテクニックとして紹介しています。
では、よろしくお願いします。
◆燃焼
燃えるという現象を、化学では燃焼(ねんしょう)といいます。燃焼とは、物質が光と熱を出して激しく酸素と反応することと定義されています。また、この化学反応を成立させるには、3つの要素が必要となります。

燃焼
可燃性物質
酸素
熱
焚き火を化学的に説明するには、この3要素が欠かせません。しかしながら、これだけでは今回の目指すところに辿り着けません。そこで、”薪が燃える”という現象について詳しく見ていくこととします。
◆薪の燃焼
薪の燃焼は、水の蒸発、分解燃焼、表面燃焼の3つの段階に分けられます。
薪が加熱されると、まず含まれる水分が蒸発を始めます。この段階では、外から与えられる熱エネルギーは水の蒸発に使われます。よく乾燥していない薪や、生木を燃やすとなかなか火が着かないのはこのためです。乾いてからでないと火は着かないのです。
しっかり乾燥すると薪の温度が上がります。このとき薪(木材)の成分が熱により分解され可燃性ガスを生成し始めます。これを熱分解といいます。熱分解により生じた可燃性ガスがある条件を満たすことで、着火し炎を上げて燃えます。これを有炎燃焼といいます。私たちが見ている焚き火の炎は薪自体が燃えているのではなく、熱分解により生じた可燃性ガスの燃焼なのです。これを分解燃焼といいます。
可燃性ガスを出し尽くすと、やがて炭素成分が残り木炭となります。この段階になると炎はなくなり、酸素と触れる表面だけが燃焼する表面燃焼となります。よく燃えている木炭で青白い炎が見えることがありますが、これは高温下で二酸化炭素が分解され生成した一酸化炭素が燃焼している炎です。

◆coffee break
”薪は、1本では燃えない”
薪をバーナーであぶってみてください。火が着いたかなと思っても、バーナーを消すと火は小さくなり、やがて消えてしまいます。
焚き火の炎は、それぞれ異なった段階(蒸発、ガス、熾き)の薪を共存させることで維持しています。うまく燃やすには、薪を2本並べます。薪は互いに熱エネルギーを与え合うことで激しく燃え上がります。人も同じなのではないでしょうか。
◆着火は上から
火口を準備し、焚きつけをつくり薪を組む。
どんな着火をしようか、一発で着くだろうか…。
焚き火を愉しむうえで、着火の方法も大切な要素となります。
焚き火をはじめる際は、上から着火することをお勧めしています。
組み上げた薪の下に火口と焚きつけを配置、または火の着いた焚きつけの上に薪を置いていきます。この方法でも着火はできますが、焚き火フリークとなるのであれば着火方法にも理由が欲しくなります。
注目して欲しいのは、煙です。下からあぶると、どうしてもモクモクと煙が出てしまいます。ヨーロッパなどの薪ストーブ過密ゾーンでは、煙が大気汚染の原因として問題視されています。キャンプ場の焚き火が大気汚染…とまでは言いませんが、単純に目にしみる、においが残る、虫よけになるという人もいますが、山ではマダニにも効く有効成分ディート30%配合、高濃度タイプの医薬品虫よけを使いたい。
少々脱線しましたが、モクモクと煙を出しても特に利点はないのです。
なかなか火が着かず、隣のサイトをサイレントヒル状態にした経験がある人は、是非この機会に、”着火は上から”を実践してみてほしい。
せっかくの可燃性ガス(煙)が、燃やされないまま放出されるのはもったいないことです。
なぜ煙が出るのか。詳しくは、後で説明します。
薪が加熱されると煙が出はじめます。この煙は、ある条件を満たすと着火しますが、下から薪を加熱しても、なかなかこの条件が成立しないので、煙として出て行ってしまうのです。くすぶっていた薪に火が着くと、すぐに煙が消えるのはこのためです。
上から着火する理由は、炎(口火)を一番上に持ってくるためです。煙は上に昇るので、口火が上にあれば、着火し燃えて炎となります。
◆薪をくべる
薪について詳しくみてみましょう。
薪(木材+水分)

急激にガス化
270~280℃
盛んに分解する温度
木 90%
材
10%
セルロース
ヘミセルロース
リグニン
その他
50%
20~30%
20~30%
240~400℃
180~300℃
280~550℃
水 よく乾燥 15~18%
分 生乾き 25~30%
※焚き火においては、含水率が低いほどよい薪
屋外での自然乾燥では、8%くらいが下限値
薪をくべると、水分の蒸発がはじまります。外側が乾燥してくると温度が上昇します。早ければ100℃で可燃性ガスが出はじめ、およそ280℃で急激に熱分解が進みます。この可燃性ガスが着火すれば炎となります。着火に至るには2つの条件を満たす必要があります。
①可燃性ガスと空気の混合気が、燃焼範囲にある。
②着火に必要な熱エネルギーが与えられる。
焚き火が勢いよく燃えている場合は、着火に必要な熱エネルギーが炎から与えられるので②は成立します。①が成立するとき、すなわち混合気が燃焼範囲の下限値に達したときに着火が起きます。このように口火がある場合を引火といいます。
口火がない場合。つまり、炎がおさまり熾火の状態となった焚き火へ薪を入れた場合は、加熱され①が先に成立するので、②が成立したときに着火が起きます。これを発火といいます。樹種によらず400~500℃で発火が起きます。
薪をくべたときになぜ煙が出てしまうのか。
可燃性ガス(煙)は、比較的低い温度から出はじめ280℃でモクモクと出はじめます。しかし、この可燃性ガス(煙)が発火するには500℃に近い温度が必要となるため。その間に可燃性ガス(煙)が燃やされないまま放出されてしまいます。
有炎燃焼
可燃性ガスの燃焼
100% 0%
可燃性ガス
下限値

燃焼範囲
空気
0% 100%
可燃性ガス
表面燃焼
未分解
熱分解
炭化領域

空気
火炎
薪

◆coffee break
新たな教皇を選出するために、バチカンのシスティーナ礼拝堂で行われるコンクラーベ。
投票用紙を燃やし煙突から煙を出すことで、結果を外で待つ人々に知らさせます。
決まらない場合は、湿った藁とともに燃やし黒い煙を上げます。白い煙が上がれば、新しい教皇が選ばれたことを意味します。しかしながら、選挙に招集された人たちが焚き火の専門家というわけではないので、この重要な白い煙を出すことは難しいことでした。
1978年のヨハネ・パウロ1世選出のときまでは、煙がどう見ても灰色で、結果を待つ人々の間に戸惑いを生じることがありました。
2005年と2013年のコンクラーベでは、煙の色が白、黒はっきりわかるように薬品とともに投票用紙を燃やすことになりました。
白黒つけない方がいいこともあるよね、アッシュグレー。
◆まとめ
うまく焚き火をするには
煙は逃さず、燃やします。
□前提条件
・薪はよく乾燥しているものを使う
止むを得ず、水分の多い薪を使う際は、焚き火台の下や遠火でよく乾燥させて
使います。
□準備
・焚きつけは、多めに用意
焚き火の途中でモクモク煙が出た際は、焚きつけを入れて炎を起こすことで収ま
ります。
・薪は細く短め
太い薪は、内部まで温まるのに時間がかかります。また、炎の範囲から出る長い
薪は、小口からの煙が燃えずに出て行ってしまいます。
□着火
・着火は上から
・着火剤(固形、ジェルなど)は、5分間燃える量があれば十分です。
□焚き火(初期)
・焚きつけでしっかり燃やす
火が着きやすく煙が出にくいので、焚き火の初期は特に絶やさず炎を維持する。
□焚き火(中盤)
・タイミングを逃さない
炎に勢いが付けば薪を投入できますが、次の薪を入れるタイミングを逃すとなかなか
燃え上がらずに煙が出てしまいます。
□焚き火(終盤)
・熾火
煙は立たず、火力も落ち着きます。煤やタールも出ないので器具が汚れにくく調理に
向いています。
□終了
・灰だけになれば、大成功
どうしても、炭は残りますが火が消えて冷めるまでが焚き火です。途中で片づける際は
火消し壺などが便利です。
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